オレは吃音症だ。
いわゆる吃り(どもり)というやつだ。
親しい人には自分から言っているし、最近はSNSでも書いているので、知っている人も多いだろう。
あるいは、直接聞いていなくても、オレとある程度長く会話をしたことのある人なら何となく分かっていると思う。
オレはそこまで重度ではなく、普通に話せることも多いのだが
ヤ行やナ行、ワ行などの単語が出にくく、吃ってしまうことが多い。
もっとも、それらの音でなくても吃ることは多いし、
逆にヤ行やナ行でも流暢に話せることもある。
傾向としては、一旦その単語で吃り、一度なんとか言えた後は、同じ単語ではしばらく吃らない。
また、独り言を言う分には一切吃らないし、歌でも吃ったことはない。
オレは頭音が連発するタイプ(「ヤッ、ヤッ、ヤッ…」という感じだ)と、
音がそもそも出ないタイプの両方の吃音を持っているので、
スキャットマン・ジョンのような吃り方をすることもあれば、そもそも何も言えずに黙ってしまうこともある。
多くの吃音症の人間がそうであるように、オレも自分の名前を名乗るのが苦手だ。
時としてスムーズに言えることもあるのだが、電話などで名前を言う際はやはり吃ってしまう。
医者や宿泊予約、仕事などの本名を名乗らなければいけない場面では吃ってでも何とか本名を伝えるが、
そうでない場面(たとえば、タクシーやチケットの予約など)では、吃らずに言いやすい偽名を使うこともある。
また、これも吃音症の人によくあることだと思うが、吃りそうな単語はひたすら言い換える。
そのせいで、やたらと回りくどい言い回しをする人間だと周囲から思われていることもあるかもしれない。
また、他人と会った時に自分から名乗らなくても良いように、予め名前を大っぴらに提示しておく。
オレがTwitterやブログを実名でやっているのはそうした理由が大きい。
実際、向こうから「キムラさんですよね?」と言ってもらえることも多くなった。
それなら、オレはただ「はい、そうです」と言えばよく、「キッ、キッ…」と吃ることはない。
また、「鳩」も言いやすい。
また、質問をされて、本当は答えを知っているのに、
答えようとすると吃ってしまうので「わからない」と答えるしかなく、辛い思いになることも少なくない。
オレも例によって、人前で吃った際に「緊張しているんだろう」とか「ゆっくり話せばいい」と言われたことがある。
だが、吃音症は「噛む」のとは違うので、
リラックスして話せば落ち着いて吃るだけだし、ゆっくり話せばゆっくりと吃るだけだ。
精神的な要因があることは否定できないが、自分でコントロールできるものではない。
吃音症をテーマにした作品は巷でも多い。
だが、オレはなかなかそういう作品を読んだり見たりする気にはなれなかった。
オレはこうして文章を書けるので、話せないことをそれほどハンデに感じていないというのも一つだが、
やはり、単純にそうした作品を見るのが辛いのだ。
しかし、ずっとそのままでいるというのも良くないし、
このブログではオレの吃音症についてはっきりとは触れていなかった気もするので、
感想に絡めてそのことを書こうと考え、押見修造の「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」を読んだのだった。
読むと、やはりきつかった。
本当は作者に敬意を持ってじっくり読むべきなのだろうが、
オレは感情移入して作品を読むタイプなので、猛スピードで読まないと胸が詰まってしまう。
しかし、何とか読み終えた。
志乃は、多くの吃音症の人間が抱える症状や悩みを抱えている。
また、作者自身も吃音症であるようで、あとがきには自身のエピソードについても触れられていた。
それは、吃音症であればきっとほとんどの人が「そうだよ、そうなんだよ」と感じるであろうものだ。
だが、この漫画は別に「吃音症あるあるだ!分かるわ」と吃音症の人々に共感を求めるものでもないし、
「吃音症の人間はこんなに辛い思いをしているんだ、分かってくれ」と、
吃音症でない人々に同情を求めるものでもないと、オレは思う。
こういう症状の人がいる、ということをただ知ってほしかった、ということだと思うのだ。
それは吃音症に限ったことではないのだろう。
その他の病気や疾患でも、知識のない人間が傍から見ると不気味に見えたり、
何が起こっているのかまったく理解できないことが多い。
そんな時、この漫画は、普遍的な物差しになり得る。
「何の病気かは分からないけど、きっと何か理由があるんだろうな」と思えるだけで、「あの人は不気味だ」というパラダイムは消え去る。
それはこちらにとっても相手にとっても利益になることだ。
そんな気付きを与えてくれる一冊だった。
【今日のまとめ】
「英国王のスピーチ」もいずれ見たいが、まだ勇気がない。
というわけで。
- 2015/10/22(木) 17:51:24|
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